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かわさきマイスター紹介

洋裁技能士 石塚 よし子さん

素材を巧みに生かす創意工夫でオーダーメードの魅力伝える

提供:川崎市
今回取材した石塚さんは、顧客の体型に合わせた衣服を作るだけでなく、襟ぐりや袖付けの工夫、正確な柄合わせなど、使う人の体形、嗜好に合わせて、創意工夫を凝らしてパタン作りと仮縫いを行っています。長い年月をかけて蓄積した技能から生み出される余裕が、シルクのように薄くて柔らかく加工が難しい素材の性質をうまく使った様々な工夫を可能にしています。
プロフィール
石塚 よし子さん

戦後、母親が始めた洋裁店を引き継ぎ、「平間洋装店」と店名を改め、持ち前のバイタリティで規模を拡大していった。2代目を継ぐ前、洋裁学校で勉強したり、百貨店の縫製部に勤め洋裁の腕を磨く。特級婦人子供服技能士を取得。平成18年度かわさきマイスター認定。
幸区在住。平間洋装店自営。
これは、石塚さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

石塚さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

母親の代から洋装店を開いていましたので、そのまま引き継いだという感じです。母は戦後、編み物か洋裁のどちらかを考えていたようですが、これから洋服が流行るだろうということで、こちらを選んだようです。私も洋裁学校に3年ほど通って勉強したあと、百貨店の縫製部で働きながら洋裁の腕を磨きました。25歳の時に本格的に母から仕事を継ぎ、お弟子さんも入れてお客さんを増やしていきました。後を継いだというより、店の名前も変え、自分で新しく始めたと言ったほうが正解ですね。

やっていて一番面白いと感じることは何ですか?

型紙を整えることから始まります。
型紙を整えることから始まります。
お客様の希望通りにデザインできた時です。体形とか好みなど、お客さんそれぞれに違いますから、それをほぼ100%満たして完成させるのは洋裁師冥利につきますね。印象に残っているのは、完成したウエディングドレスに半月くらいかけて刺繍をしたことです。結婚式で大変好評だったそうで、私も苦労した甲非があったと嬉しかったです。
慎重にハサミを入れていきます。平面から立体的なデザイン誕生への第一歩です。
慎重にハサミを入れていきます。平面から立体的なデザイン誕生への第一歩です。
一番難しいのは、やはりデザインですね。お客様の特徴を掴み、立体的にデザインして、それを一枚の型紙に表していかなければなりませんから、非常に技術を要します。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

正式に店を継ぐ前に、もう私が主体的に店を切り盛りしていましたので、自然にこの道に入ってしまったという感じです。子どもの頃から足も届かないのに足踏みミシンに触って縫製の真似事をしたり、母の仕事ぶりを見て育ちましたし、母も継がせるつもりでいたようですから、結局は親の思い通りになったわけですね。私自身も、この道以外は考えたことありませんでした。洋裁そのものが好きというのが、大きな原動力になっていると思います。
石塚さんが愛用しているのは昔から使っている足踏みのミシンです。
石塚さんが愛用しているのは昔から使っている足踏みのミシンです。
既製服全盛の今と違って、昔は注文服が主体で、またオーダーも多かったですから、技能を磨くチャンスにもそれだけ恵まれていたと思います。私の所でも繁忙期には10人ほど、お弟子さんがいましたから、今とは比べものになりません。子供服なんか、今はほとんど注文がありませんね。

苦労したことはありますか?

今はあまり注文がありませんが、ベルベットなど素材の扱いで苦労したことがあります。逆に木綿は扱いやすいですね。洋裁は季節によって素材が異なってきますので、選定には神経を使います。正月前など納期に迫られる緊張感もありますね。繁忙期には従業員を総動員して月に30~40着は作ったことがあります。私自身も1日1着は作っていました。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

愛用のハサミ。「このハサミは誰にも貸しません」と石塚さん。
愛用のハサミ。「このハサミは誰にも貸しません」と石塚さん。
裁断が早いことです。洋裁はまずデザインを決め、型紙づくり、裁断、縫製へと進みますが、型紙に沿って生地を切り取る工程が出来栄えを決定する大きな要素になります。ここでモタモタしていると、後々の工程に響きますから裁断は大事なポイントです。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えて下さい。

お母さんの代から使い込まれた足踏みミシン。
お母さんの代から使い込まれた足踏みミシン。
母の代から続けて教室を開いていますが、何もできなかった教え子が、コートからスーツまで、何でもできるようになった時は嬉しいですね。今は店と「てくのかわさき」の2カ所で30~40歳代を中心に20人ほど教えています。技能の伝授も大切ですが、洋裁の魅力そのものを肌で感じてもらいたいと思いながら指導しています。というのも、最近は自分の洋服を作りたいという若い人からの注文がめっきり減ったことで、社会からものづくりの魅力がだんだん忘れ去られようとしているのではないかと危惧しているためで、少ない生徒数ですが、せめて私の教え子たちには、その魅力を伝え残していきたいと思っています。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

愛用のアイロン。これも大事な道具の一つです。
愛用のアイロン。これも大事な道具の一つです。
お客様がいちばん喜んでくれたのと、注文が増えたことです。もちろん、生徒たちも大変喜んでくれました。その時はもう母は亡くなっていましたが、居れば一番喜んでくれたと思います。それと、イベントなどで「洋裁を習いたい」という来場者からの反応がうかがえるのも嬉しいですね。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

仕事自体が減ってきているため、後継者を名乗り出る人は少ないですが、生徒の中に中学を卒業して以来ずっと洋裁をやっている年配の方がいて、その方が自分の娘や孫に洋服を仕立ててあげたいと言っていつも頑張っていらっしゃることが一つの励みになりますね。郷里に帰って洋裁店を始めた人もいますし、年齢を問わず、多くの人たちに創作の喜びを語っていただきたいです。今は後継者を育成しようにも、洋服そのものについて注文して作ろうという人たちが減ってきたこと自体が、大きな足かせになっていると思います。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

「地道な技能の積み重ねが大事」と語る石塚さん。
「地道な技能の積み重ねが大事」と語る石塚さん。
洋裁に向いているかどうか、本人を見れば分かりますが、今は「とにかくやってみなさい」と言いたいです。うちに来ている生徒さんは「自分で洋服を作りたい」という人がほとんどですが、それも一つのきっかけになるかもしれません。1人前になるには週1回教室に通って5年くらいかかりますから、要は地道な技能の積み重ねが大事だということです。

最後に、これからの活動について教えて下さい。

既製品全盛の時代、手づくりの良さを伝えていきたいです。
既製品全盛の時代、手づくりの良さを伝えていきたいです。
女子中学生にもっと洋裁への関心を持ってほしいですね。ある中学校へ実習を行った時、集まったのは男子中学生の方が多く、女子がほとんど来なかったことにショックを受けたことがあります。男の子たちはミシンなどの機械に興味を示したようでしたね。「技能職種を学ぶ」という教科がありながら、縫製そのものへの関心は薄いようです。洋服も今はオーダーメードの時代ではなく、低価格の既製品が豊富に出回って注文品の影が薄くなっています。それだけに、職人として手づくりの良さをどうしても伝えていきたいですね。

どうもありがとうございました。
作業台に昔懐かしい足踏みミシンが1台置いてありました。お母さんの代から使い込まれたのか黒光りして、いかにも重厚なメカという感じです。コンピューターミシンが当たり前の時代、石塚さんがずっと愛用してきた一番大事な“道具”だそうです。このミシンから素敵な洋服がどれだけ多く誕生したことか、石塚さんの大きな足跡を見るようでした。
【問合せ先】  
平間洋装店

■所在地   幸区下平間151
■電話    044-522-1604
■FAX         044-522-1604
■営業時間  9:00~18:00
■休み    日・祝