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かわさきマイスター紹介

手描友禅 石渡 弘信さん

自然の美しさ・豊かさを伝統の技で描く

提供:川崎市
手描友禅は友禅染め本来の技法で、型紙を用いずに下絵から色挿し、仕上げまでの工程を手描きによって染付けします。今回訪問した石渡さんは、伝統的な友禅染めの技法と日本画の表現方法で、日本の自然の美しさ・豊かさを、素材である生地の特性を生かしながら深みのある色合いで染め上げ、着物などに潤いと品格を醸し出す技能の持ち主です。特に、紺色の微妙な濃淡や、金箔押しの微細さは素晴らしく、高く評価されています。
プロフィール
石渡 弘信さん

横浜市生まれ。33年染め物業の大定工芸入社。41年日本デザイン専門学校卒業。43年独立し石渡染色工房を開設、現在に至る。伝統技能を生かしながら、現代にもマッチする商品開発に意欲。かつて皇族のご婚礼振袖の文様を手がけたこともある。数々のコンテストに入賞。
通産省認定東京手描友禅文様部門伝統工芸師。かわさきマイスター平成9年度認定
高津区在住。石渡染色工房自営。
これは、石渡さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

石渡さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

小、中学生の頃から、何かものづくりをする仕事に就きたいと思っていました。たまたま叔父の家が染め物屋をしていて高1の時、着物の染色をやり出し私に手伝わないかと声がかかりました。自分自身も手仕事を業としたいという気持ちがあったので、すぐに大定工芸というその会社に入りました。入社した翌年に天皇・皇后両陛下のご婚礼があり、着物が見直されたことなどもあって結構忙しかったことを覚えています。そこで8年ほどいましたが友禅など、なかなかやらせてはもらえず、もっと本格的に勉強したいと思い、デザインの専門学校に入学しました。日本芸術院に所属する彫金の先生や日本画の先生に師事し、工芸や絵を習いました。

やっていて1番面白いと感じることは何ですか?

工房で手描友禅に取り組む石渡さん。ここから美しい花鳥風月の世界が生まれます。
工房で手描友禅に取り組む石渡さん。ここから美しい花鳥風月の世界が生まれます。
手描きの仕事は、同じことの繰り返しでない点、また5年とか6年ほど苦労してやっとできるようになって作品として実感できるようになった時、自分の中で一つ一つ得られていくものがあり、それがまたお客さんにも喜んでいただけるという感動ですか…。半面、美術館などに保存されている江戸時代の職人のコピーを作ってみても、なかなかそれを越えられない“もどかしさ”もあります。
色鮮やかな染料が、繊細なタッチで生地に吸い込まれていきます。
色鮮やかな染料が、繊細なタッチで生地に吸い込まれていきます。
また出来上がった作品に、描いている時の作者の気持ちの“揺らぎ”が出てくるのが面白いですね。その時何を考え、どんな気分だったのか、創作者の心が繊維とか絵柄の中に現れるのです。手工芸品の面白さですね。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

ずらりと並んだこれまでの傑作。
ずらりと並んだこれまでの傑作。
もともと美術的なものが好きだったことが基礎にあると思います。日本画の勉強もしましたし、単に写し取るというのではなく、伝統に学び、もっぱら自分の表現をすることを考えてきました。難しくなるとすぐやめる人もいますが、私の場合、何度も失敗などしても困難を乗り越え、形に成り、残ったときの達成感や喜びを知ることが出来たので、チャレンジし続けてきました。

苦労したことはありますか?

叔父の家の染め物屋に最初入った頃は、ほとんど雑用ばかりで、きちんとした染め物の仕事もさせてもらえず、自分の出番がなかったです。「見て覚えろ」と言われて、じっと見ていると今度は逆に「何してるんだ」なんてよくしかられました。とても修行した8年間とは言えないですね。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

着物を広げ、色付け前の下絵を見せる石渡さん。
着物を広げ、色付け前の下絵を見せる石渡さん。
桃山時代から続く金箔押しの技法などを使いながら、素材に微妙な濃淡をつけて染め上げていく技術ですかね。ただ、これまで作ってきた作品は数え切れないほどありますが、自分自身、心底得心が出来たものはまだ少ないです。制作のペースは下図だけなら月に10反位こなしますが、丸受けだと2ヶ月に1反程度、時間をかけ神経を込めて描き上げていきます。
トータルして全部自分で出来るのが強みといえば強みで、実際、この世界は分業化されていて、一つの職種でやってきた人は特に今苦戦していますね。東京の場合、どんどん絶対数が減ってきていますから、最終的には主な工程だけでなく、全ての工程をマスターしなければいけないと思います。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えて下さい。

愛用の筆と匠の手。
愛用の筆と匠の手。
友禅という日本の伝統文化を伝えられることが最大の魅力ですね。それに加え私の場合、昔から伝えられる花鳥風月の特性をきちんと表現しながらも、その伝統
の枠の中でさらに自らの独自性を創り上げることです。ただ最近は職人の仕事があまり評価されず、手仕事自体減ってきたのは寂しいですね。

かわさきマイスターに認定されて良かった点を教えて下さい

文様がまるで動画を見るようにくっきりと描かれていきます。
文様がまるで動画を見るようにくっきりと描かれていきます。
まず地域との接点ができたことです。それと異業種だが「同じものを見つめている」という共通点を感じる他のマイスターとの接触も増え、いろいろ勉強できる幅が広がったのがいいです。また現在、40人ほどの生徒を集め教室を開いていますが、そこでも、もづくりへの関心が一段と高まったようにも感じます。マイスターの制度は市民一般にカルチャーそのものへの関心を高める効果があるのではないでしょうか。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

鮮やかな色彩が目を奪う手描友禅の小物。
鮮やかな色彩が目を奪う手描友禅の小物。
うちは幸い息子が後を継いでくれましたが、一般的に職人の後継者育成は難しい問題ですね。息子も本来なら外の親方に仕込んでもらいたかったのですが、今は一人の親方が一人の弟子を育てることができにくい時代になっています。学校教育は芸術家は育てますが、職人は育てません。徒弟奉公を経験してきた職人がたくましいのは、自分で技能を勝ち取ったからです。特に手描友禅のような創造性の強い技能は感性で覚えるものであって、いちいち教えない方が良いかも知れません。感じ取って掴んでいく、要は本人の感覚と感性だと思います。子どもは特に教えすぎると伸びないかもしれません。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

たくさんの下絵が綴じられていました。
たくさんの下絵が綴じられていました。
粘り強く続けられることが第一です。そしてさっき言ったように、感性を磨いて欲しい。それには物事に感動すること。また自然とできるだけ接して欲しい。特にこの友禅の世界は自然の豊かさを表現した文化であり、自然を愛でる気持ちがなければなりません。もう1つは、はみ出すパワー。学校では絵を描くにしても決まりごとや色使いの枠からはみ出さないように教えますが、私はもっと自由に考えさせ、色だって自分で発明しなさいと言っています。怖がらないで、自分のやりたいことをやったらいいと思います。

最後に、これからの活動について教えて下さい。

地域との接触を深めること、またお客さんからの注文とは別に、自分独自のものを創り上げていきたいです。他とは競合しないオリジナルな世界に取り組んでいこうかなと考えているところです。

どうもありがとうございました。
淡々とした石渡さんの語り口に、熟練した技能者としての意気と、芸術家としての風格を感じました。取材の傍らで黙々と仕事を続けておられた息子さんの存在も印象的で、後継者としての力強さを垣間見るようでした。
【問合せ先】  
石渡染色工房

■所在地      高津区二子4-19-10
■電話    044-822-9368
■FAX     044-822-9368
■営業時間  9:00~17:00
■休み    日・祝